赤手空拳 5





三蔵たちは の言った この世界での戦闘が

精神的にダメージに来るものらしいことは

戦い始めてから ようやくその意味を知る事になった。

如意棒で錫杖で藍錆を叩くたびに 疲れが来る。

実際には 精神力で相手を叩いているのだから 当然だ。

三蔵は 悟空と悟浄の様子から いつものように 弾を撃っていたら

無駄弾どころか 無駄に疲れるだけだと 判断して、

狙いを定める事に集中していた。

3人に精神的に弱い者などいないが、それでも 疲れないわけではない。

三蔵は 藍錆の弱点を効率よく責めなければ 敵を倒すことができないと思い、

悟空と悟浄の戦闘から 相手を探る。





良く見ていると 藍錆は必ず 祭壇を背にして戦っている事に きがついた。

祭壇には なんだか解らないが 小さい社がある。

ここに入ってきたときにも 奴は祭壇にぬかずいて なにやら祈っていた。

このままでは いくら 悟空と悟浄が 強くても 

いつもとは違い それほど持たないだろう。

藍錆を倒しても この世界から戻るのに どれだけの力が必要かわからないのだ。

体力 いや精神力温存のためにも 無駄に疲れる事は避けなければならない。

そう判断した三蔵は 藍錆が 2人のほうに気を取られているうちに

祭壇の社を 射程内に収めるように 移動した。

三蔵は 藍錆を撃つ振りをして S&Wを構えると、社の中心をめがけて 

続けざまに3発を 撃ち放った。





藍錆は 三蔵が自分を狙っているものと 安心して、

悟空と悟浄の相手をしていたのだが

社に対して 三蔵が撃ったと知ったときには すでに遅かった。

それまで どれほど 悟空と悟浄が攻撃しても 余裕で受けていたのが、

社に対して 三蔵が攻撃をしたと知ると 明らかに狼狽しているようだ。

弾が当たった直後に 肩と脚の3ヶ所から血が出ている。

「やっぱりな。

悟空、悟浄 こいつの弱点は あの祭壇の社らしい。あれを叩き壊せ!」

藍錆を責めあぐねていた2人は 三蔵の言葉に にやりと笑った。

「弱点見つけたんだ〜! やったね。 じゃあ 遠慮なく行くぞ〜。」

悟空は 藍錆の頭上を越えて 祭壇に向かい社を壊そうとする。

それを追って 悟空を攻撃しようとする藍錆に「お前の相手は こっちだって!」と

悟浄が すかさず 行く手を阻んだ。




悟浄に阻まれ 悟空に社を叩き壊された 藍錆の身体は 見えない力が加えた打撃で

変形し もう手向かう力もない様に横たわっている。

叩き壊すことなど 造作もない様に思えたが 悟空は肩で息をするほどのエネルギーを

使ったらしく 如意棒を支えに立っているほどだった。

「俺を 倒したからといって この世界からは出られないぞ。

お前たちの身体は 現実の世界で 衰弱して死に逝くだけだ。

あのお姫様の力でも ここから3人を引き上げる事は出来ないだろうからな。

今のうちに 誰が犠牲者になるか 相談した方がいいぞ。」

負けた腹いせなのか 三蔵たちに捨て台詞を吐いて 藍錆は事切れた。





それを聞いた悟空は 三蔵を見る。

「三蔵こいつあんなこと言ってたけど 嘘だろ?」

「いや たぶん嘘じゃねぇ。」

「おいおい マジかよ。俺達3人 全員は帰れないのか?」

「ここを出ようよ、が迎えに来ても 中に居たら帰れないじゃん。」

悟空は 建物の外に出て行った。

三蔵も悟浄も その後を追う。

門を出た所で 3人は からの連絡を待つことにした。

三蔵が瞑目したままで しばらく待つと 「三蔵 様子はいかがですか?」

の声が聞こえてきた。




 敵は倒した。この世界の結界の強さは 弱まったか?」

「はい いくらかは弱くなったので 今迎えに行きますから、そこでお待ちください。

お渡しした 蓮の花びらを手に握って 私の事を イメージしていただきたいのです。

3人ともよろしくお願いしますね。

八戒に説明をしたら すぐに行きます。」ははそう言って 話を終えた。

瞼を上げた三蔵は「いまから が迎えに来る。花弁を 手に握って の事を

頭に描くんだ。いいな。」悟空と悟浄は 黙って頷いた。

言われたとおりに 花弁を握って 瞼を閉じている。

三蔵は 懐の花弁を取り出して 左の手に握り 愛しい女の姿を思い描いた。




「八戒 三蔵たちを迎えに行きます。敵は倒したそうです。

3人が目覚めても 私は起きれないでしょうから、そのまま寝かせてください。

医者は必要ありません。ただ 回復するのを待っていてくださればいいのです。

もし そのまま 永遠の眠りに就いたとしても 3人には説明をお願いします。

八戒 後をお願いしますね。」

それだけ言うと は ベッドの三蔵の左手を握り それに額をつけて瞑目した。

 必ず 生きて帰ってきてください。

僕たちには 貴女が必要なんです。」

八戒の声は すでにには 届いていなかった。





「三蔵、悟空、悟浄、目を開けてもいいですよ。」

その声に3人が 瞼を上げると 普段の旅行着とは違い 

美しい天女の衣装でたたずむが微笑んで 目の前に居た。

「私の力のあるうちに帰りましょう。

最初は悟浄です。次が悟空。最後が三蔵でお願いします。

悟浄は 私から一番遠い力の持ち主ですから 最初です、

悟空は天界にあった身ですから悟浄よりは楽ですし、

三蔵は神に近き者ですから 私の力を少し補ってもらえるので、

最後にお願いしますね。」3人は 何も言わずに に頷いた。

いつもなら 冗談の1つも言う悟浄も の真剣で 

切ない表情を前に 何も言えなかった。

は 悟浄の前に行き 花弁を持った手を片方だけつなぐと 

「悟浄 帰りましょう、目を閉じて私の姿を イメージしてください。」

三蔵と悟空の2人には と悟浄が 薄くなって掻き消えたように見えた。




すぐに だけが現れて 悟空にも同じように 言う。

悟空は 嬉しそうにを見ると は悟浄の時は 片手だったのに対し、

両手で 悟空と手をつなぐと また消えた。

三度目に三蔵の目の前に現れたは 明らかに 辛そうな表情だった。

 無理してるんだろう。大丈夫か? 少し休んだらどうだ?」

「いいえ 三蔵。敵を倒した今 ここに長く留まるのは 危険です。

それに 休んでも良くなるわけじゃないですから、

このまますぐに行きましょう。」

「手伝える事はないのか?」

「では 私の身体を抱きしめていてもらえますか。

三蔵と離れてどこかに行かないように 捕まえていて下さい。」

三蔵は言われたとおりに を胸に抱きしめた。

も 三蔵の首に腕を絡ませる。

「三蔵 花弁を持って そのまま 目を閉じたら 

私の姿を思い描いてください。」

「解った。造作もねぇな、いつもやっていることだ。」

「そうですか こんな時に うれしい事をお聞かせ下さるんですね。

三蔵、愛しています。

では 帰りましょう。」瞼を閉じた闇に の姿を思い描くと 愛しい女は微笑んで

三蔵の唇に 口付けを施してくれる。

三蔵は 口付けをしたまま の身体を抱きしめながら 浮遊感に襲われた。




瞼に 明るさを感じて 目を開ければ 

悟浄と悟空・八戒の心配そうな顔が 三蔵を見ていた。

「三蔵 戻れたんですね。大丈夫ですか?」

「あぁ、まあな。は どうした?」

なら 三蔵の手を握って そこに居ますよ。」

八戒の視線の先に は居た。

三蔵は握られた手を外したが はピクリとも動かない。

三蔵はあわてて 脈と息を確かめると ほっとして息を吐いた。

「八戒 どういうことだ?」

「三蔵 あの世界から 3人を戻すのは の力の限界に近い作業のようでした。

それでも やらなければ 僕たちは誰かを失う事になると、は言いました。

命がけになる事を も僕も知っていましたが 僕には止められなかったんです。

もし 命がない場合は 他に方法がないことと 

喜んでこの作業をやったと伝えてくれと

が言付けるほど 危険だったと思います。

でも とりあえずは 別状はないようなので 

後は ただ休ませてあげる事になると思います。

このまま 覚醒しない時は 眠らせておいてくれれば 

力が戻り次第 起きるそうです。」

「そうか それほどの危険を冒して 迎えに来てくれたのか・・・・。」

三蔵は ベッドから降りると の身体を抱き上げて、

隣室の2人にあてがわれた部屋に運ぶと 

柔らかい布団の上に 横たわらせてやった。 







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